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    2009年10月27日火曜日

    Antichrist

    備忘録として。

    注:長くなります。とりとめもない文章です。

    週末、Lars von Trier の新作Antichristを見た。

    Larsといやあ、私にとっては「キングダム」なんだけれど、あれは大学時代に友達と二人できゃーきゃー怖がりながら、一夜を明かして見た経験がある。怖いのだけれど、次のビデオをどうしても借りなきゃ、って言って、夜中にレンタルビデオ屋まで車を走らせたのだった。

    その後、Breaking the Waves、The Idiotsとか、Dancer in the Darkとか、ありましたね。Manderlayは見ていないなあ。
    彼の作品はそれなりに見て来ているけれど、今ひとつ、好きになれなかった。彼は人が「好きだわー」という映画作りをする人ではないし、雪の下の炎の映画の編集をやってくれたミリツァみたいに、「大ファンなんです♡」とは断じて思わない。

    で、Antichrist、今まで以上にショックバリュー抜群で、嫌いになろうと思えば、なれる要素は沢山あるのだけれど、あまりに映像がきれいなのと(もうこの世のものではないくらいきれい。撮影監督はスラムドッグ・ミリオネアをやった人で、LarsとはDogvilleから組んでいる人)、内容がもう映画に描かれる人間性の普遍をゆうに超えているので、ぜんぜん忘れられないんだ。
    だから、今までで一番好きなラースの作品だったのかもしれない。他に映画を観てこんな体験をしたことないので、あえて好きだ、と言っているのかもしれないが。

    で、次の朝7時まで眠れなかった…

    セルジュとジェーン・バーキンの娘の、フランス女優のシャーロット・ゲンスブールと、プラトーンやあるいは、「スパイダーマンの友達のパパ」のウィリアム・デフォーが夫婦役として出てくるのだけれども、彼らはきちんとヌードで、もう考えられないくらい、例えば、後ろの席の女の子があまりに驚いて悲鳴をあげて私の椅子を何度も蹴りあげたり、途中で劇場を出て行くひとが数人でるくらい(みんなトイレにたち、戻って来てはいたが)、ショッキングなストーリー展開なんです。
    夫婦の話なんだけれど、サスペンスのある、ヨーロッパ的なシンボリズムと悲劇に満ちあふれた映画、ともいうべきなのだろうか。ま、下にトレイラーを貼付けるから、それで。勇気と好奇心があれば、是非、見に行ってください!

    ま、タイトル自体があれですね。
    ちなみにアンチキリストは百科事典マイペディアによると: 〈キリストの敵〉の意で、ギリシア語ではAntichristos。世界終末のキリストの再臨前に出現して教会迫害したり世を惑わす偽預言者,異端悪魔などをいう。《ヨハネの黙示録》(13:18)の数666はその象徴

    Larsはずーっと鬱病を患っていて、この映画は自分の認識療法の一環として制作したという。私は彼のことを今まで、人に自分の狂気をシェアするのが好きな人だな、ちょっと行き過ぎ、と思っていたのだけれど、ここまでいくと、応援したくなる。私の心が広くなったのか、あるいは、Antichristが本当に人の嗜好を変えてしまうほどのポテンシャルを持っているのか、分らないが、(多分両方)天才というのは、こういう人のためにある言葉なんだなあ、と。

    ちなみに、カンヌ映画祭での記者会見では映画にあまりに腹を立てたある記者に「一体どういうつもりでこの映画を作ったのか、弁明しろ!」と言われて、「弁明?」と怪訝そうな顔をし、そのあとに「弁明もなにも、私は世界中で一番の映画監督だから」と言いのけた。

    Antichrist - Chaos Reigns at the Cannes Film Festival 2009 from Zentropa on Vimeo.



    弁明なんてさせるな、アホ!と言いたい。それだけ話題になったと言うこと。

    このあとネット上で音声インタビューを聞いたが、これはイギリスとの電話インタビューだった。彼の声やトーンがあまりにも「ふつう」で共感さえも感じたくらい。全うな狂気。
    今までいかにひどい鬱病に苦しんできていて、この作品はセラピーだったか、完全に治ることは絶対にないだろうけれど、病状はいくらか改善している、という話。あと、若い時にいろいろやったシャーマニズムの儀式中の(はい、色々お飲みになったそうです)経験も元になっているのだ、と言っていた。インタビュアーの「本当に自分が世界で一番の映画監督だと思うんですか?」という質問にも、「その通りです」と答えいていた。
    あっぱれ! 半ば正しいかもしれない。

    シャーロットはインタビューで自分がLarsを演じている気がした、と言っていたし、ウィリアムはあまりにもLarsの具合が悪くて現場で監督できずに、別室からモニターを見ながら監督をすることもあった、彼が撮影しているときの鬱の具合は本当にあまり良くなかった、と言っていた。

    前の作品で主演したBjorkもNicole Kidmanも、二人ともLarsと喧嘩して大変だったらしいし、ことBjorkに関しては、途中で撮影を飛び出して、二度と女優をやらない、と言ったそうだ。こういう人と、仕事をするのは多分魂を使い切ることだと思う。しかも俳優は身体全体で応じなくてはならない… 信じられない世界。

    とにかく、映画が終わり、友達がトイレに行ったので私は外に出て来た。外に出たら、編集者のミリツァが友人たちと一緒に立っている。偶然。私が何かを言うまでもなく、こちらの顔を見たら、挨拶もなしに、「言わないで! なんにも言わないで! 聞きたくない! これから、見るのだから!」 
    「ああ、そう、言わないよ」と言おうにも、ぎゃーぎゃー言われて口も聞けない。とにかく、私は映画のショックでまだ身体が震えているし、誰かとコミュニケーションをとりたい状態なのに、まともに話しもできやしない。

    ミリツァはそのまま友人と映画館に吸い込まれていった。友達がトイレから出て来て、「困ったね、お腹すいているけれど、すいていないね、スゴい映画だったね」といいながら、ギリシャレストランに行き、強めのお酒を頼む。やっと、まともに考察が述べられそうな気配ではあったが、「いやー」「すごいねー」「天才だねー」「狂ってるねー」と会話して、食事もやはり食べた。
    1時半までほっつき歩き、帰宅。

    私は朝7時までどうにも寝れなかったし(映画だけのことじゃないのかもだけれど)、翌日はその友人も、ミリツァからも両方「この映画が忘れられない」というメールがあった。

    はー。 ひとつの映画に、これだけ肉体で反応するって、そういう経験ってすごいね。改めて映画は芸術なのだ、と感じる。

    二度と見ない、と思ったけれど、また見ても良いとすら、今はそう思える。

    David Lynchはところで、最近どうしているのだろう。

    Lars von Trier's Antichrist - Official Trailer from Zentropa on Vimeo.

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